1ドル300円の円安で日本経済は良くなる?

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1doll300

新NISA一括投資→即毎月定率取り崩し運用中のQ太郎です。

思ったより円安が進んでしまって、今週はついに161円まで突破してしまいました。

そんな中、円安が進むことで日本経済がよくなるという話もあります。今回はそのことについてです。

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1ドル300円で日本はよくなる?

こんなご質問をいただきました。

1ドル160円を突破しそうな状況ですが、とある経済学者が「円安上等。1ドル300円になれば日本は良くなる」のようなことを言っていました。

理由としては、通貨安は近隣窮乏化政策としても知られており、自国経済には追い風になるとのことです。

しかし実際のところ、我々庶民の視点からすると、円安でよくなるどころか悪くなっています。

物価は上がっている一方、給料はほとんど上がっていません。インフレ率を加味した実質賃金は下がり続けています。

実際のところ、このまま円安が進んでいって日本経済がよくなることはあるのでしょうか

とのことです。

このご質問をいただいた時期はまだ1ドル159円でしたが、もう160円どころか161円を突破してしまいましたね。

まず経済ですが、マクロ視点とミクロ視点での切り分けが必要です。つまり全体で見た場合と、個々で見た場合は状況が違うということですね。

それに利上げや利下げ、通貨安など、実際の効果があらわれてくるまでにはタイムラグがあります。そのため、いまは悪くても、だんだん良くなるという可能性もあります。

ただ問題としては、物事が急激に進みすぎると、ロジックどおりにいかなくなるということです。急激な円安とか、急激な円高とかですね。

超通貨安であるハイパーインフレで国家がよくなるかといえばよくならないわけで、物事の動きが急激すぎると実社会がついていけなくなるのですね。

通貨安は近隣窮乏化政策

それでご質問にあった「通貨安は近隣窮乏化政策」という話ですが、これ自体は間違いではありません。

ただ言葉だけが広まっており、内容と歴史の流れをちゃんと理解していない人が多い気もするので、このことについて述べていきます。

まず近隣窮乏化政策が何かというと、為替介入などによって自国通貨を通貨安に誘導することです。政府があえて自国通貨を切り下げていくことですね。

これをすると何が起こるかと言えば、おなじものを売るとしたらみんな安いところから買いたいので、自然と通貨の安い国のものを買うことになります。

そうなると通貨の安い国のものが売れ、輸出が増大します。一方で、通貨の高い国のものが売れなくなります。

通貨の安い国は輸出が増えるので、生産を増やすことで国内の失業者も減っていきます。一方で、通貨の高い国はものが売れなくなるので、失業者も増えていって貧しくなります。

「通貨安は近隣窮乏化政策」というのは、ようは通貨安で自国だけがもうかって、近隣の他国はものが売れなくて窮乏化するということですね。

ただ当然、近隣国もこれを見逃すわけがないので、対抗して自国通貨の切り下げを行おうとしてきます。

そうなるとやったやられたの報復合戦になるのですね。

これは実際、恐慌後の1930年代に各国が通貨切り下げ合戦をし、これが原因で世界的な経済の沈滞を招き、ついには第二次世界大戦に突き進んだ原因の一つにもなったともいわれています。

近年の話をすれば、2010年以降からアメリカの金融緩和政策によってドルがじゃぶじゃぶ状態になり、日本などはその割を食って円高に進んでいきました。

これも一種の近隣窮乏化政策で、2012年あたりになるとドル円は1ドル80円を割り込む円高状態になってしまったのですね。

通貨安による近隣窮乏化政策は相手国に失業を押し付けるという効果もあり、日本は失業者も増えていきます。

さすがにやばくなってきたことから、2013年からアベノミクスによる「日本も金融緩和によって円ジャブジャブ政策」がはじまります。ある意味、アメリカへの通貨安の報復にもなっているのですね。

これにアメリカは反発して、同年の6月に与野党議員226名が「日本を為替操作国に認定し、対応を求める署名」を当時のオバマ大統領に提出しています。

さらに2016年には、アメリカは日本を為替操作の監視対象リストに入れました。この年にはトランプ大統領が当選しましたが、トランプ大統領も日本と中国を為替操作国として非難していましたね。

昨年の6月、日本が為替操作の監視対象リストから外されたのですが、今月20日にまたまた監視対象リストに入れられました。まあ、実際に介入してますし、しょうがないといえばしょうがないですね。

それで現在ですが、とうとう1ドル160円まで行ってしまったわけです。2012年の1ドル80円以下のときから考えれば、じつに2倍というか、日本円の価値が2分の1になったということにもなりますね。

「通貨安になれば生活がよくなる」という話であれば、すでに80円のときから考えて2倍の160円になっているので、日本はウハウハでなければいけないわけですが、実際はそうなっていないのは皆さんが一番よくわかっているとは思います。

「円安になれば生産拠点が日本に戻る」とも言われていますが、実際に80円から2倍の160円になりましたが、生産拠点が日本に戻ってきているわけでもないわけです。

そのため現在の160円が約2倍の300円になったとしても、たぶん似たようなことにしかならないでしょう。

話を戻しまして、このように世界各国が金融緩和合戦をはじめてしまうとお金の価値自体が減ってしまうため、今度は過度な世界的インフレに突き進んでしまいます。

このようなときに取る政策というのが何かといえば、金融の引き締めです。お金の量を減らすということですね。

金融引き締めによって自国通貨を高くすることで国内需要、内需を犠牲にせずにインフレを抑える効果があります。アメリカがいまやっていることはまさにこれですね。

インフレ対策というか自国の利益のために金融引き締めをやって、あえて自国通貨を高くしてインフレを抑えているとも言えます。どの国も自分の国のためにしか動いてはいません。

現在の状況

話を戻しまして「通貨安は近隣窮乏化政策」と言われますが、昔はこの話がつうじていたのですが、現在は産業構造自体が変わっており、そう単純な話ではなくなりました。

「通貨安は近隣窮乏化政策」が成り立つ条件としては、「生産拠点が国内にある」ことと「他国と同等の輸出品がある」ということです。

安い国内で生産して、高い海外へ売ってもうけるというモデルなので、国外で生産して国外で売って、それでもうけたお金を国外に投資していたら話にならないわけです。

日本の場合、円高のときに生産拠点を国外へ移してしまったことから、円安の恩恵を受けにくい構造になってしまっています。

さらにいえば人口減少で国内の投資先もとくにないことから、けっきょく海外で稼いだお金を、未来のある海外の国に投資するという形になってしまっています。

円安の恩恵が受けにくい構造なのですね。

しかもアメリカと違って自国で石油などの資源を持っていませんので、輸入品が円安でどんどん高くなっていき、国民の生活にも打撃をあたえていきます。

それと「通貨安は近隣窮乏化政策」の成り立つ条件で、「他国と同等の輸出品がある」とありますが、車関連はまだまだトヨタとかが頑張ってくれていますが、家電とかは中国や韓国に負けている状況です。実際、シャープはつぶれましたし、東芝もやばいですしね。

さらに近年の産業でもっとも利益率の高いITですが、日本は多くのサービスをAppleやグーグル、アマゾン、ネットフリックスなどアメリカ企業に頼っています。この円安でもそれらに頼らざるを得ないのです。

そもそもこのYoutube自体もGoogleですしね。日本にもニコニコ動画のような動画サービスがありますが、正直うまくいっている感じはあまりありません。

昔のように、「通貨安だから、みんな日本のサービスを使う。日本からものを買う」という風にはならないのですね。日本人自体がそれをやっていません。動画配信サービスもほとんどがアマゾンプライムとかネットフリックスとかを使っていると思います。デジタル書籍もアマゾンのキンドルですしね。

これは値段よりも「使いやすいものを使う」「便利なものを使う」という「質」を重視し始めたということにもなります。

そのため、「通貨が安ければもうかる」という話にはならなくなったのです。

たとえば以前の「FIRE後/老後に遊びたいゲーム」という動画で、『Europa Universalis 4』というゲームを紹介したのですが、このゲームのDLC、昔は2000円ぐらいでSteamで売っていたのですが、いまは2,600円ぐらいに値上げしています。海外は平気で値上げします。かといって、やっぱり買う人は買うのですね。「円安だから日本のゲームが売れる」というふうにはならないのです。

まあ、ポケモンの好きな人に、「ポケモンは高いからデジモンにしなよ」といっても、代替商品にならないのとおなじことです。まあ、ポケモンもデジモンもよくわかりませんが。

通貨安でもうかるものにインバウンド需要がありますが、昨年のインバウンドの収支黒字が約3.6兆円。一方でデジタル関連収支赤字は約5.5兆円で、この1ドル160円の円安下で、通貨高のアメリカのほうが稼いでしまっているわけです。

これが1ドル300円になったらインバウンドの方が勝つわけもなく、やっぱりみなさんはYoutubeを見ますし、アマゾンプライムを使いますし、Apple製品も使いますし、ネットフリックスも観ますしで、状況はあまり変わらないとは思います。

インバウンドは天候やコロナみたいな感染症の病気などにも左右されてしまいますし、不安定なのですね。ITは天候も病気も知ったことじゃないですし、むしろなにか感染症が蔓延したら家にいる時間が増えることでむしろさらに稼いでしまうのですね。

そんなわけで、世界恐慌とか第二次世界大戦とかのころの、世界各国が資源や物資を売っていた時代とは状況が全然違うわけです。

使いたいサービスや欲しいものというのは値段が上がってもやはり使いたい人は使いたいのです。

 

まとめ

そんなわけでまとめると、

・経済はマクロ視点とミクロ視点で切り分ける必要がある。国がもうかっても、個人の多くが貧しいという状況もある。

・「通貨安は近隣窮乏化政策」は、「生産拠点が国内にある」ことと「他国と同等の輸出品がある」という条件下でなら正しい。

・すでに日本は1ドル80円以下のころから2倍の1ドル160円になっている。それで生活がよくなったかという話。160円が約2倍の300円になっても似たようなことにしかならない可能性は高い。

・昔と違って、便利なサービスや欲しいものなど、「質」を消費者が求めようになっている。この1ドル160円の円安下でも、インバウンド需要より、クソ高いアメリカのデジタル関連の需要のほうが大きい。

となります。

通貨高のアメリカはしっかり海外に輸出ができていて、円安の日本はインバウンド頼りでしかもデジタル需要に負けているというの現在の現実です。

これが300円になってなにか変わるかと言えば、80円がすでに160円になっているので、それで国民が豊かになったのかという話にもなります。

結局は高くても欲しいものを売らないといけないのですね。このままどんどん円安になっても、我々はアメリカのデジタル関連にお金を落とし続けることになります。

たとえ1ドル300円になっても、我々はアマゾンプライムやYoutube、ネットフリックスにお金を落とし続けてしまうのです。そういう生活が急に変わるとも思えません。結局はデジタル赤字を続けていくことになるでしょう。

そんなわけで現在はITもあり、第二次世界大戦のころとは状況が大きく違いますので、「通貨安は近隣窮乏化政策」が単純には当てはまらないわけです。