「有事の円買い」は過去の遺物?円の安全神話が崩れた4つの理由

yuuji yen

取り崩し投資運用中のQ太郎です。

今回は、「有事の円買い」は過去の物かどうかについてです。

本記事をYouTube動画で観たい方はこちらのリンクから。

スポンサーリンク

いただいたご質問

こんなご質問をいただきました。

「『有事の円買い』が通用しなくなって、トランプのやらかしの有事にもかかわらず、現在円安進行中です。円はこのままどんどん弱くなっていくのでしょうか。スイスフランは依然として強いです」

とのことです。

かつて「世界一安全な通貨」と呼ばれた日本円ですが、今回のイラン戦争以前から円が弱くなっていて、戦争が始まっても円が弱いという状況が続いています。

結論から言うと、日本の経済構造が「稼ぐ力」を失い、「有事の円売り」へと変質してしまったというのがQ太郎の見立てです。

今日はその理由を4つに分けて解説していきます。

またスイスフランとの比較も交えて話しますが、5年前の2021年では1フランが116円ぐらいだったのが、2026年3月には200円を突破しており、円との実力差は歴然としています。

理由その一:エネルギー自給率の低さと「輸入インフレ」

理由その一は「エネルギー自給率の低さと輸入インフレ」です。

資源エネルギー庁の公式データによると、2022年度の日本のエネルギー自給率は12.6%。OECD38カ国中37位という極めて低い水準です。

しかも原油は中東地域に9割以上を依存しています。

つまり、ホルムズ海峡封鎖などの地政学リスクが発生すると、原油・天然ガス価格が急騰し、日本は輸入代金を支払うために「円を売ってドルを買う」必要に迫られます。

かつては輸出企業が強かったため貿易黒字で相殺できましたが、2011年以降は赤字に転じやすい構造になっています。有事は「円買い」どころか、「生き残るための円売り」を加速させるわけです。

スイスと比べると、スイスは資源国ではないものの、地理的に安定したヨーロッパの中心にあり、水力発電や原子力発電でエネルギーの一部を自給できます。また強力な備蓄と多様な供給ルートを持っています。

日本はほぼゼロの資源しか持たない島国。中東のシーレーンが封鎖されれば、一瞬で干上がります。

理由その二:「還流しない資金」リパトリの終焉

理由その二は「還流しない資金、リパトリの終焉」です。

かつての「有事の円買い」の根拠はこうでした。危機が起きれば、日本の投資家が海外資産を売って国内に資金を戻す、いわゆるリパトリエーションが起きて円が買われる、という理屈です。

ところが現実はどうなっているかというと、日本企業はすでに生産拠点を海外へ移し、得た利益は日本に戻さず「海外で再投資」するのが主流になっています。住友商事グローバルリサーチによると、2005年には貿易黒字と第一次所得収支の黒字が逆転し、日本経済は「貿易立国」から「投資立国」へと変化しました。

つまり、もはや「国内に資金を戻すインセンティブ」が消えているわけです。海外の資産はあっても、それを円に換えて日本に戻す理由がなくなってしまっている。

スイスはどうかというと、一貫して大規模な貿易黒字を維持し、高品質な製品で外貨を稼いで国内に還流させています。

日本はもはや「稼ぐ国」ではなく、外貨を払うだけの国になりつつあるとも言えます。

理由その三:円キャリートレードの罠

理由その三は「円キャリートレードの罠」です。

円キャリートレードとは、低金利の円を借りて、高金利の資産、たとえばドルなどで運用することです。これ自体は以前からある手法なのですが、状況が変わりました。

かつては有事でリスクオフになると、このポジションが解消されて円が買い戻されました。これが「有事の円買い」の一因でもありました。しかし現在は、日本と世界の圧倒的な金利差、そして日本の国力低下への懸念から、「多少の危機では円に戻すよりも、そのままドルで持っておいたほうが安全」という判断が働いています。

面白いことに、スイスの政策金利は現在0%台と日本と大差ないか場合によっては低いくらいなのですが、それでもスイスフランは買われます。

金利ではなく、国の信頼性や経済の健全性で通貨の強さが決まる、ということを示しています。

理由その四:地政学的立場の違い

理由その四は「地政学リスクと中立国の壁」です。日本は中国、北朝鮮、ロシアといった国々に囲まれた不安定な東アジアに位置しています。

アメリカの同盟国でもあるため、地域紛争が起きれば直接的な当事者になり得ます。

アジアの有事は、日本への「避難」ではなく「脅威」そのものです。一方スイスは、1815年のウィーン会議以来、現在に至るまで永世中立国として歩み続けてきた国です。

どの軍事同盟にも属さず、周囲を安定した同盟国に囲まれており、真の意味で「地政学リスクから最も遠い場所」とみなされています。

IMFのデータをもとにしたブルームバーグの試算によると、2025年の第1四半期には世界の外貨準備で943億ドル相当の円が売られ、スイスフランの買い入れは過去最高の667億ドルに達したと報告されています。

世界の中央銀行レベルでも、「円からスイスフランへ」という流れが始まっているわけです。地政学リスクが高まった時、投資家は「本当に安全な」スイスフランに資金を逃がし、日本円は「当事者リスク」から売られるという構図が鮮明になっています。

まとめ:「円さえ持っていれば安全」という神話を捨てる時代へ

まとめです。「有事の円買い」は、日本が強力な製造業と貿易黒字を持っていた時代の遺物となっています。

エネルギーと食料を外に依存する脆弱な輸入国であり、地政学的にも不安定な当事者になりやすい国、という現実が円の弱さの根本にあります。

スイスと比較すると、貿易収支の健全性、エネルギーの多様性、地政学的な中立性、すべての面で差が広がっているとは思います。

「円さえ持っていれば安全」という神話を捨て、個人の資産防衛として外貨や金などへの分散を考えるべき時が来ています。

これまでのように貯金しておけばOKみたいな時代ではなくなってきているのですね。

とはいえ、円安がずっと続くかどうかはわかりませんし、今後の日本の金利動向や政策次第で状況が変わる可能性もあります。

あくまで現状の構造的なリスクとして把握した上で、自分なりのバランスを考えていただければと思います。

タイトルとURLをコピーしました