イーロン・マスクの異常な合理性|なぜ彼は180億円を即座に使い切れるのか

「授かり効果」とイーロン・マスクの異常な合理性|なぜ彼は180億円を即座に使い切れるのか【ASD】
自分の持ち物を客観的な価値以上に見積もる「授かり効果」と、イーロン・マスクなどそれを無効化するASDの人たちについてです。録音できない環境なのでゆっくり実況形式(セルフボイス)でお送りします。チャンネル紹介ゆっくり実況形式(セルフボイス)に...

前回の動画で、人間がいかに「損をすること」を恐れているかという話をしました。

今日はもう少し違う角度から「人間とお金と物」の話をしようと思います。テーマは「授かり効果」です。一度手に入れたものは、本来の客観的な価値よりも高く感じてしまうというものですね。

ヤフーオークションとかメルカリで、「こんなものに、なんでこんな高い値段つけてるの?」みたいな出品が多いのも、この授かり効果が関係しています。

そんなわけで、ようこそ、Q太郎のお金の哲学チャンネルへ。賢く資産形成をしつつ、お金に悩まされないための生存戦略を日々発信しています。

今回は、授かり効果と、それがまったく効かない人たちの話です。

・サンクコストの罠のおさらい

前回の話の中で、コンコルド問題にも触れました。コンコルドとは、イギリスとフランスが共同開発した超音速旅客機ですね。採算が取れないことが明らかになった後も、「これまでに使ってきたコストがもったいない」という理由で開発を続けてしまった例として有名です。

これが「サンクコストの罠」と呼ばれるものです。

頭のいい人間、優秀なエンジニア、経験豊富な経営者がそろっていても、この罠から抜け出すことは非常に難しい。なぜなら、これは知識の問題ではなく、脳の処理の問題だからです。

人間はすぐに判断する直感的思考と、じっくり考える論理的思考があります。直感的思考だと認知バイアスの存在を客観的に考えられないので、非合理な判断をしてしまいがちなのですね。

そして人間は多くの場面で、直感的思考を使ってしまうわけです。

今日はその話の続きとして、「授かり効果」という概念を紹介します。

・授かり効果とは何か

授かり効果は、簡単に言うと、「一度自分のものになったものを、客観的な価値より高く見積もってしまう」という心理バイアスです。

わかりやすい実験があります。

被験者を二つのグループに分けます。一方のグループにはマグカップを渡し、もう一方のグループには何も渡しません。そのあとで、「いくらで売りますか。あるいは買いますか」と聞きます。

マグカップを「持っている」グループは、持っていないグループに比べて、同じマグカップに対してほぼ二倍の値段をつける傾向があったんです。

客観的に見れば同じ価値のものなのに、「自分のものになった」という事実だけで、それだけ価値の認識が変わってしまう。しかも二倍ってすごいですね。

これが授かり効果です。

前回、コイントスの話をしましたが、裏が出たら10ドル払わないといけない賭けに対し、多くの人は表が出たら20ドル以上をゲットできないと、この賭けに乗らないわけです。所有や損失に対する価値は、客観的な価値の2倍はあるということですね。

・日常に潜む授かり効果

通信販売でよく見る「30日間返金保証」というのも、この効果をうまく利用した仕組みですね。

「気に入らなければ返品してください」というのは一見、消費者に優しい条件のように見えます。でも実態はどうか。一度手にしてしまったものは、なかなか返品しない。業者側の立場から言えば、「とにかく一度相手の手に渡してしまえば、大抵はそのまま持ち続ける」という経験則に基づいた戦略です。実際そうなので、この商売が成り立っているのです。

もっと極端な例を言うと、リアルのオークション会場では、競売にかけるアイテムを参加者に触らせるだけで、落札価格が上がることが知られています。

「触る」だけでいい。それだけで脳は「これはちょっと私のものだ」という感覚を持ち始めてしまうのです。オークションの主催者はそのあたりをよく心得ているのですね。

車のディーラーが試乗を勧めるのも、アパレルショップが「とりあえず試着してみてください」と言うのも、全部この効果を利用しています。一度自分の体に乗り移らせてしまえば、人はそのものを手放しにくくなるわけです。

・なぜ人はものに愛着を持つのか

なぜこれが起きるかというと、人は「手に入れたものを、自分の一部、つまり「拡張された自己」として脳内で処理する」からです。

「これは私のものだ」と認識した瞬間、そのモノに自分のアイデンティティが乗り移ります。だから手放したくなくなる。手放すことが、自分の一部を失うことのように感じられるわけです。

だから大富豪でも、すぐに買いそろえられるものが盗まれたとしても、怒り出すわけです。自分の一部が奪われているわけですからね。

所有することは、単なる「物理的な保有」ではなく、「心理的な自己の拡張」なわけなのです。

・ASDの人に授かり効果が効かない理由

ここで面白い例外の話が出てきます。

自閉スペクトラム症、ASDの特性を持つ人の中には、この授かり効果が非常に薄い、あるいはほぼ機能しないと言われているケースがあります。

なぜそうなるのか。

ASDの特性を持つ人の一部には、「モノと自己を強く結びつけるフィルター」の働きが弱い、もしくは異なる形で処理されることがあります。「私のもの」と「私」の間に、一般の人たちほど強いリンクが張られない、ということです。

わかりやすく言うと、こういうことです。

一般の人たちが「これは私のお気に入りのペンだ。だから特別だ」と感じるとき、ASDの傾向がある人は「これは私が持っているペンだ。だから市販価格通りの価値がある」と客観的に処理する傾向がある。

感情的な色付けがなく、フラット。モノをありのままに、客観的に評価するのですね。

これは「物を大切にしない」ということではありません。むしろ逆で、「主観に惑わされずに、物の本質的な価値を正確に見る能力が高い」という話です。

・ビジネスにおける強み

これがビジネスの世界でどういう意味を持つか、考えてみてください。

サンクコストに引きずられない。授かり効果に惑わされない。自分が積み上げてきたものへの感情的な執着が薄い。

普通の人間がどれだけ訓練しても、意識的にしか制御できないことを、脳の特性として自然にやってしまえるわけです。これはかなりすごい能力です。

売却すべきときに売却できるし、撤退すべきときに撤退できるし、変化に対して身軽でいられるわけです。

合理的な判断ができて、変化に強い。公平な評価ができる。これは経営判断において、非常に強力な武器になります。

多くの人が「心理的なバイアスを無くそう」と訓練してもなかなかできないことを、脳の特性として自然にやってのけられるのは、間違いなく一つの能力です。

・イーロン・マスクという事例

そこで出てくるのが、イーロン・マスクの名前です。

マスク氏は2021年に、自身が自閉スペクトラム症であることを公表しています。当時の表現ではアスペルガー症候群ですね。

彼のビジネス上の判断を振り返ると、まさに「授かり効果が薄い人」の典型的な行動パターンが見えてきます。

・PayPalの売却

まず、PayPalの話です。

マスク氏は、X.comという会社を作り、それが後にPayPalになりました。2002年にPayPalはeBayに買収されます。このとき、彼は創業者として当然、PayPalに対して強い愛着を持っていてもおかしくないわけです。しかし彼はあっさりと売却し、手にした約1億8,000万ドルを、即座に別のプロジェクトに全額投入しています。

その使い道が、SpaceXとTeslaです。

「育てた会社を手放すのがつらい」という感情を、少なくとも行動の上では見せなかった。それどころか、すぐさまその資金で新しい会社を作ったのですね。恐るべき合理性と行動能力です。

普通の人だったら、合理的だとわかっていても、まず実行はできないとは思いますね。

・不動産の手放し方

次に、不動産の話です。

イーロン・マスクは一時期、自分のアイデンティティの象徴になりうるような豪邸を含む不動産を次々と売却し、「小さなプレハブのような家で十分だ」と公言しました。

実際、すごい小さな家で、机の上にはspaceXのオブジェしか置いていないみたいな感じです。タオルも一枚ぐらいしかない。子供が泊まりに来たときは、マスク氏本人はガレージで寝たという話もあります。それぐらい狭い。

多くの人が「せっかく手に入れたものだから」と執着するような状況で、マスク氏は淡々と手放していった。所有物が自分のアイデンティティとリンクしていない人間の行動として、非常に典型的な例です。

そもそも見栄の消費自体がないのですね。だから資産何兆円でも、世間に見せるための消費はしないわけです。

・第一原理思考とロケットの自作

そして、SpaceXを作るときのエピソードが、マスク氏の思考法をよく表しています。

ロケットを打ち上げるためにロシアから中古ロケットを買おうとしたところ、あまりにも高価でした。普通のビジネスマンであれば「ロケットとはそういう値段のものだ」という常識に従い、諦めるか、もしくは高いお金を払って購入します。

でもマスク氏はそこで立ち止まって、別のことを考え始めました。

「ロケットを構成している物質を、原材料として積み上げたらいくらになるか」

アルミニウム、チタン、銅、炭素繊維、燃料。それらの原材料価格を物理的に計算したところ、完成品の販売価格のわずか数パーセントにしかならないことがわかりました。

マスク氏はそこで結論を出します。「原材料を買って、自分たちで作れば圧倒的に安くなる」と。

これがマスク氏の言う「第一原理思考」です。

常識や「これまでのやり方」を一切無視し、物理的な事実だけをベースにゼロから価値を計算する。「伝統あるロケットメーカーが作った製品だから価値がある」という主観的なバイアスを完全に取り除き、物体としての価値だけを見た。だからこそできた判断です。

・マスクの例外:ビジョンへの執着

ただ、ここが面白いところなんですが、マスク氏は「物理的なモノ」に対してはこれだけドライなのに、自分のビジョンやアイデア、そして影響力に関しては非常に強いこだわりを持っています。

TwitterをXに改名して、大混乱を引き起こしても突き進む。自分の発言が世界中で炎上しても気にしない。

「物理的な所有物」への執着と、「自分のビジョンやアイデア」への執着は、マスク氏の中では別の回路で処理されているように見えます。

「自分が持っているから特別だ」「これまで苦労して維持してきたから価値がある」というエモーショナルな授かり効果が機能しない一方で、マスク氏が周囲の反対を押し切って冷徹な勝負に出られるのは、「所有物をフラットにリセットできる能力」が極端な形で出ているからだと言えます。

・まとめ

授かり効果という概念をまとめると、人は一度手にしたものを、客観的な価値より高く見積もってしまう。これがマーケティングに利用され、オークションに利用され、私たちの日常的な消費行動に深く影響しています。

ASDの特性を持つ人の一部は、この効果が薄く、モノをフラットに、客観的に評価できる場合がある。これは「感情がない」という意味ではなく、「主観的なバイアスに惑わされにくい」という意味です。

イーロン・マスクはその代表例の一人です。もちろん、これはASDの人全員に当てはまる話ではありませんし、ASDを美化したいわけでもありません。ただ、「自分のものだから特別だ」という感覚から自由になれる人間が、どれだけ合理的な判断を下せるか、という一つの事例として、非常に興味深いと思っています。

お金を扱う上でも、「これは私のものだから特別だ」という感覚を少し脇に置いて、「客観的に見てこれは今の自分に必要か」と問い直すクセをつけるだけで、かなり判断は変わってきます。

授かり効果を完全になくすことは難しい。でも、その存在を知っているだけで、少しだけ自由になれます。

皆さんは、「これは手放せない」と思っているものの中に、冷静に考えると別にそこまで必要ではないものが含まれていますか。よかったらコメントで教えてください。全部読ませていただいています。

数字を味方に。そして、誰の欲望でもない自分の人生を、自分の手で耕していきましょう。

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