お金を持っている人が勝つ世界で、どう生きるか。サンデル教授に学ぶ市場社会の罠と生存戦略

お金を持っている人が勝つ世界で、どう生きるか。サンデル教授に学ぶ市場社会の罠と生存戦略
多くのモノがお金で取引される「市場社会問題」についての動画です。録音できない環境なのでゆっくり実況形式(セルフボイス)でお送りします。(参考文献)「それをお金で買いますか?」マイケル・サンデル著チャンネル紹介ゆっくり実況形式(セルフボイス)...

最近サンデルの「それをお金で買いますか」という本を読んでいまして。Q太郎、このサンデルというかたの本がけっこう好きなのですね。マイケル・サンデル氏はハーバード大学の政治哲学者で、「これから正義の話をしよう」という著書が世界的なベストセラーになっています。日本でも相当売れましたし、NHKの「ハーバード白熱教室」という番組でご覧になったかたも多いと思います。

「それをお金で買いますか」はその続編的な位置づけの本で、市場とお金と道徳の話が書かれています。お金さえあればなんでも買える時代に、本当に「買ってはいけないもの」があるとしたら、それは何なのかという問いを掘り下げた本です。

今回はこの本をベースに、資本主義にしてはいけない分野について考えていきます。

そんなわけで、ようこそ、Q太郎のお金の哲学へ。お金に悩まされないための生存戦略を日々発信しています。今回は「市場経済と市場社会」を深掘りしていきます。

・市場経済と市場社会

まず「市場経済」と「市場社会」という言葉の違いから整理しておきます。

市場経済というのは、需要と供給に基づいてモノやサービスの価格が決まる仕組みのことです。これ自体はそれほど悪いものじゃないわけです。資源をどこに配分するかという問題を、計画経済よりもうまく解決できるという意味では、今のところ市場経済の右に出る仕組みはなかなかない。

問題になるのが「市場社会」のほうです。本書でサンデル氏が使うこの言葉は、市場の論理があらゆる分野に浸透して、本来お金で売買すべきでないものまでが商品化されていく社会のことを指しています。医療、教育、友情、順番待ち、果ては政治参加まで、なんでも値段がつく世界ですね。

市場経済はあくまで「道具」なわけです。ところが市場社会になると、お金で解決できることが増えすぎて、「お金を持っているかどうか」が人生のあらゆる局面を決めるようになっていく。サンデル氏が本書で警鐘を鳴らしているのは、まさにこの「市場社会化」が気づかないうちに進みすぎているという話なのですね。

・列に並ぶこと、売ります

具体的な例から見ていきましょう。「列に並ぶ」という行為。これがすでにお金で売買されているわけです。

おっさん世代のかたならわかると思いますが、昔ドラゴンクエスト3が発売されたとき、プレイステーション3が出たとき、発売日の前夜から大行列ができていたわけです。当時は今よりネット通販も普及していないので、欲しければ店頭で並ぶしかない。その行列に並ぶことを「仕事」にしているかたたちがいたわけです。お金を受け取って、代わりに何時間も並んで、ゲームを確保してくる。依頼した本人は並ばなくていい。本来の顧客である子供たちは当然そんなお金はないわけで、大人に押しのけられてゲームが買えない。

新型iPhoneが出るたびに並ぶのも同じ話ですね。寒い中徹夜で並んで手に入れたiPhoneを、そのまま高値で売る。

転売ヤーはさらに一歩進んでいます。自分で並んで大量確保して、フリマアプリで高値転売する。ニンテンドースイッチ2の発売時もそれが起きましたね。メーカー希望小売価格の2倍以上の値段がついたりするわけです。被害を受けるのはだいたい子供たちか、どうしても欲しいのに転売価格まで出せない一般の消費者です。

コンサートチケットのダフ屋もそうです。会場前でチケットを売る、あれです。Q太郎はコンサートにほとんど行かないので最近の状況はよくわかりませんが、昔は会場前にけっこういた記憶があります。今はネット転売がメインになっているでしょうか。やっていることの本質は全部同じで、「お金を持っているかどうか」が優先順位を決める仕組みということですね。

・お金持ちは並ばなくていい

ここまでは転売ヤーやダフ屋が不正にやっているケースでしたが、最近は企業側が公式にそのシステムを導入しているケースも出てきています。

USJやディズニーランドが、いわゆる「有料の優先チケット」を販売しています。追加料金を払えば人気アトラクションに並ばなくていいというやつですね。正式名称はいろいろありますが、仕組みとしては「お金を払えば待ち時間を買える」ということです。

資本主義的に言えば完全に合理的な話です。需要があるから値段をつける。追加料金を払いたいかたには快適な体験を提供する。双方の合意のもとで成立している取引です。反論しにくい。

ただ問題は、ディズニーランドという場所が「夢の国」という建前で運営されているという点です。その「夢の国」に、親の財力による格差が持ち込まれる。親がお金持ちなら子供は並ばなくていい。そうでなければおとなしく2時間並びなさいという話になる。

夢の国に夢と希望があるかどうかはまあ個人の感想ではありますが、考えてみると、「行列に並ぶ」というのは数少ない「平等な体験」のひとつだったわけです。お金があろうがなかろうが、同じ時間をかけて並ぶ。それが公平さの象徴でもあった。そこにお金の論理が入ってきた瞬間に、その平等が消えるわけです。

これが道徳的にどうなのかというのは、Q太郎がひとことで答えを出せる問題ではないですが、単なる「サービスの差別化」と「公平な場所の崩壊」の境界線がどこにあるのか、考えていく価値はある話だとは思います。

・医療が売り物になるとき

さらに問題が大きくなるのが、医療の分野です。

アメリカに「コンシェルジュドクター」という仕組みがあります。高い年会費、年間数十万円以上の場合もありますが、それを払う代わりに、専属の医者が24時間対応してくれる。電話一本でいつでも相談できて、予約なしでもすぐ診てもらえる。一人の患者にじっくり向き合ってくれるわけです。

医者側にとってもメリットは大きい。担当する患者数を絞れますし、一人のかたと丁寧に向き合えますし、収入も増える。患者側も、待たずに最高の医療を受けられる。市場原理としては、双方の利益が一致しているわけです。

ただこの仕組みが広まるとどうなるか。医者がみんなコンシェルジュ型に移行していったとすると、大金を払えない患者が診てもらえる医者がどんどん減っていくわけです。お金のあるかたは最高の医療を受けられて、そうでないかたは医者にすら会えない社会になりかねない。日本でも、人手不足が深刻になる介護や医療の分野で、同じことが起きる可能性は十分あります。

美容医学も同じ問題をはらんでいます。病気を治すより美容整形のほうが収入が大きいとなれば、美容整形に参入する医者が増えるわけです。実際そういう傾向は出てきています。市場の論理としては正しい動きです。ただ、それが社会全体にとって何を意味するかはまた別の話になってくる。

・臓器移植という難問

飛行機のファーストクラスが優先搭乗するのは、まあ他の乗客が実害を受けるわけではないので、そこまで問題にはならないわけですが、臓器移植の話になると、さらに複雑になります。

日本では臓器が少ないので、病気の子供がアメリカで臓器移植を受けるために募金活動をしているケースがあります。テレビで見たかたも多いと思います。

で、その募金で集まったお金が、移植の待機順番を早めるために使われているとしたら、何が起きるか。善意で寄付したかた、あるいは善意で募金を呼びかけた家族は、その行為によって、他の待機中の子供たちの順番を後ろに押しやっていることになるわけです。

自分の子供を助けたいという気持ちは当然ですし、それのために募金を集めることも自然な行動です。でも善意の行為が、他の誰かの不利益に直結している可能性がある。これをどう考えるかというのは、かなり厄介な道徳的問題です。

市場原理が「命の順番」という領域にまで浸透したときに起きる問題の一例として、非常に示唆的だとQ太郎は感じています。答えは簡単には出ないですし、出すべきでないとも思う。ただ「考えることを止めてはいけない問い」だとは思います。

・まとめ

そんなわけでまとめると、「市場経済」と「市場社会」は区別して考えるべきだという話です。お金で効率よくモノを配分する仕組みはそれ自体は有効でも、その論理が全領域に浸透してしまうと、本来は市場の外に置くべきものまで値段がついてしまう。

サンデル氏が本書で言っている重要な指摘のひとつに、「市場はそこにあるものを変えてしまう」というものがあります。たとえば友人関係に値段をつけた瞬間、それは友情ではなくサービスになる。命の順番にお金を払えるようにした瞬間、それは医療ではなく商品になる。市場化することによって、そのものが持っていた本来の意味や価値が変質してしまうというわけです。これはQ太郎もなるほどと思いました。

どこかに線を引かなければならないのですが、その線をどこに引くかは非常に難しい問題ですし、立場によって答えが変わります。Q太郎個人としては、USJの優先チケットはそれほど好きじゃないですし、医療や臓器移植のような分野に関してはある程度の規制が必要なんじゃないかという気はしています。ただこれは感覚的な話で、理屈でどう整理するかはまた別の問題になってくる。

ただひとつ言えるのは、「市場で解決できるなら市場に任せればいい」という発想を自動的に採用するのではなく、「これは市場に任せていいのか」という問いを立てる習慣を持つことが大事だとは思うのですね。そういう問いを立てなくなったとき、気づかないうちに市場社会が完成しているかもしれない。

転売ヤーが資本主義的に正しいのかどうかという話は、また別の機会に深掘りしたいと思います。

USJやディズニーランドの優先チケット、どう感じましたか。賛成、反対、あるいはもっと別の観点があれば、ぜひコメントで教えてください。全部読ませていただいています。

数字を味方に。そして、誰の欲望でもない自分の人生を、自分の手で耕していきましょう。

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