こんなご質問をいただきました。
「資産運用を始めましたが、商品を一つに絞れません。
最初はオルカンを買っていましたが、S&P500も追加しました。
その後、新しい商品を知るたびに、いろいろ追加しています。
最近は、自分が何を目的に、どういう方向性で投資しているのか分からなくなってきました。
Q太郎さんなら、どう整理しますか?」
とのことです。ありがとうございます。
まあ、Q太郎も取り崩し投資実験でいろいろな投資信託を買いましたね。数十種類あるとは思います。
いろいろ買いたくなる気持ちはよくわかりますね。
オルカンを選んでも、S&P500の上昇を取り逃したくない。
S&P500を持っても、NASDAQの大きな成長を取り逃したくない。
株式を持てば、暴落に備えて債券や金も欲しくなる。サテライト的にレバナスも欲しくなる。
選択肢を増やせば、後悔が減るように思えます。
しかし実際には、商品を増やすたびに、「こちらをもっと買えばよかった」という比較対象も増えていきます。
投資先を増やしているつもりが、後悔の候補を増やしている場合もあるのですね。
そんなわけで、ようこそ、Q太郎のお金の哲学へ。お金に飲み込まれないための生存戦略を独自の視点で解説します。
今回は「もっと良い商品があるが資産を減らす」を深掘りしていきます。
・三つの話
今日は大きく三つ話します。
一つ目、あれもこれも持つことは、本当に分散投資なのか。
二つ目、選び直せるほど満足度が下がる写真の実験。
三つ目、小さな不満ほど心の防衛反応が働きにくいことです。
最後に、もっとよい商品を探し続ける人は何を手放せていないのか、Q太郎なりの見立てを置いて終わります。
・一つ目・商品数と分散は違う
それでは一つ目、あれもこれも持つことは、本当に分散投資なのかです。
投資商品が増えると、分散できたように感じます。
一つの投資信託だけでは不安なので、二つ、三つと買う。
株式だけでは不安なので、債券や金も追加する。
値動きの違う資産を組み合わせること自体は、分散投資の基本です。
ただ、商品名が違うことと、投資先が違うことは同じではありません。
オルカン、S&P500、NASDAQを持てば、商品の数は三つになります。
しかし、中に入っている米国の大型企業には重複があります。
同じ企業を、違う箱から何度も買っている状態になるのですね。
もちろん、その配分を理解したうえで、米国株やハイテク企業を多めにしたいなら、それも一つの判断です。
問題は、本人が配分を決めたのではなく、それぞれの商品を持っていない不安から追加していることです。ようするに、持っていないと不安だから買っているというパターンですね。
あちらが上がったときに悔しくないよう、少し買う。
こちらが暴落したときに安心できるよう、別の商品も買う。
結果として、何をどれくらい持っているのか、自分でも説明できなくなります。たぶん質問者さんはこの状況だと思います。
投資方針ではなく、過去に見聞きしたおすすめ商品の展示場になっているのですね。
さらに、商品が増えるほど成績を比べる機会も増えます。
今年はNASDAQが上がった。高配当株はあまり上がらなかった。
ゴールドが下がった。国債は動かなかった。
すると、次は成績のよかった商品を買い、成績の悪かったものを避けるので、結果的に高値づかみしやすくなるのですね。ゴールドとかもそうですね。上がっているときに買って、下がっていると手を出したくなくなる。ヘッジが理由なら、下がっているときに買ったほうがいいのですけどね。
それに商品を増やせば、すべての危険を避けられるわけではありません。
自分が何を持っているか分からない状態は、分散というより、どういう方向性で投資するかの判断を先送りした結果だとは思います。計画性があるわけではなく、その場その場の流行りやおすすめで買ってしまっているのですね。
・二つ目・交換できると満足できない
二つ目、選び直せるほど満足度が下がることです。有名な写真実験がありますね。
心理学者のダニエル・ギルバートとジェーン・エバートは、写真を使った研究を行いました。
参加者は写真の撮影と現像を学び、自分で撮った写真から、意味のある2枚を選びました。
そして1枚を手元に残し、もう1枚を手放します。
一方のグループには、一度選んだら交換できないと伝えました。
もう一方には、数日間なら、手元の写真と手放した写真を交換できると伝えました。
普通に考えれば、写真をあとで交換できるほうが安心感があります。
選択を間違えても、あとから直せるからです。
ところが、時間がたったあとに手元の写真への満足度が高くなったのは、交換できない人たちでした。
交換できない人は、もう一枚について考えても仕方がありません。
そこで、手元に残した写真のよいところを見つけます。
この構図がよい。このときの思い出がある。やはり自分はこちらを選んでよかった。
現在の選択へ納得する物語を、心が作り始めるのですね。もはや変更できない状況なので、心理的な防衛反応が働いているわけです。
一方、交換できる人には、まだ選択肢が残っています。
本当にこちらでよかったのか。もう一枚のほうがよかったのではないか。交換期限まで、もう少し考えたほうがよいのではないか。
現実へ納得する代わりに、比較を続けます。
さらに面白いのは、人はこの結果を予測できないことです。
別の実験では、参加者の66.3%が、あとから変更できる条件を希望しました。
平均的な学生なら変更できる条件を選ぶだろうと予想した人は、84.3%でした。
人は変更できるほうが、自分にとって有利だと思います。
変更可能性が満足度を下げるとは考えません。
そのため、わざわざ満足しにくい条件を選びます。
投資も同じです。
いつでも売れる。いつでも別の商品を追加できる。いつでも配分を変えられる。
この自由があるため、安心できると思います。
しかし、自由が残っているかぎり、判断は終わりません。
今日はオルカンでよいと思っても、明日はS&P500と比較します。
新商品が出てきたと聞けば、それと比較します。きりがないわけです。
いつでも選び直せる自由とは、毎日選び直す仕事を自分へ残すことでもあるのですね。
これだったらオルカンやS&P500のみで、ほかは買わないで割り切っている人のほうが、比較が無くなるので、幸福度や満足度が高いとは思いますね。
・三つ目・小さな不満ほど長く続く
三つ目、小さな不満ほど、心の防衛反応が働きにくいことです。
ギルバートたちは、別の研究で、「そこまで悪くないこと」が妙に長く続く現象を扱っています。
強い苦痛が起これば、人は本気で対処します。
状況を変える。助けを求める。意味を見つける。現実へ納得する物語を作る。
心の防衛反応が動き出すのですね。
ところが、少し嫌なこと、まだ耐えられることでは、この反応が十分に働かない場合があります。
大きな災難より、小さな不満のほうが長く残ることがあるのです。
国家の防衛に例えれば、大規模な戦争が起これば、国家は非常事態として総力を挙げます。アメリカ相手に、まともに戦争しても勝てないわけですね。防衛反応がしっかり働くわけです。
しかし、小さなテロや破壊工作が断続的に続くと、平時の仕組みを残したまま対応するため、うまく対応できないわけです。小さい事なので、それに対して大きなコストをかけるわけにもいかない。防衛反応がうまく働かないのですね。
投資でも、資産が半分になるような大きな失敗が起これば、多くの人は対応を考えます。
商品を売る。資産配分を見直す。投資額を減らす。誰かに相談する。
問題が大きいため、決断せざるを得ません。
しかし、「この商品より、あちらのほうが今年は3%よかった」という程度の不満は、決断を促しません。
いまの商品を売るほどではない。
ただ、持っていないのも不安なので、あちらも少し買っておく。
こうして、小さな不満への対策として商品が一つずつ増えます。
大きな失敗なら、一度で反省できます。
しかし、小さな比較は終わりません。
毎日少しずつ、「こちらでよかったのか」と心を削ります。
人は大きな災難を恐れます。
しかし、人生を長く消耗させるのは、耐えられない不幸より、耐えられてしまう小さな不満なのかもしれません。
投資で言えば、明らかな詐欺商品だけが危ないのではありません。
悪くはない商品を持ちながら、「もっとよい商品がある」と探し続ける状態も、資産と時間を少しずつ削っていきます。
・まとめ・選ばなかった可能性を手放す
最後に、もっとよい商品を探し続ける人は何を手放せていないのか、Q太郎なりの見立てを置きます。
投資商品を増やすことは、可能性を増やすことだけではありません。
後悔する候補を増やすことでもあります。
商品が2つなら、後悔も比較も最大で2つです。
商品が10個あれば、後悔も比較も最大で10個になります。
どれを多く買えばよかったかという後悔も増えます。
しかも、今年の正解は、来年の正解とは限りません。
すべての相場で勝てる商品を、前もって選ぶことはできません。
それでも「もっとよい商品」を探し続ければ、上がった商品が見つかるたびに、自分の選択が失敗に見えます。
Q太郎は、最高の商品を探すより、「何を持たないか」を決めるほうが重要だと思っています。
オルカンを選ぶということは、オルカンを買うことだけではありません。
ほかの商品や個別株が一時的に大きく上がっても、それを急に欲しくなったり、追いかけないと決めることです。戦略もなく、その場の不安や感情で買わない。
高配当株を選ぶなら、無分配の投資信託と毎年効率を比べ続けるのではなく、定期的に現金を受け取る方針を選んだと理解することです。
どの商品にも、選ばなかった商品のよいところは入っていません。
一つを選ぶということは、ほかの可能性を失うことでもあります。
その損失を受け入れず、すべてを少しずつ持てば、決断したようで、何も決断していない状態にもなりかねません。
投資で安心している人は、つねに最高の商品を持っている人ではありません。
投資の方針を決め、自分が何を捨てたのかを理解し、毎日選び直さなくてよい人です。
「もっと良い商品がある」と探し続ける人は、悪い商品を持っているのではありません。
選ばなかった可能性を、ずっと手放せずにいるのですね。
選び直せる自由と、選んだものに満足する自由は、同時には手に入らない場合があります。
投資では、いつでも変更できる自由だけでなく、もう比較しなくてよい自由も必要とは思います。
今のところ、Q太郎はそんなふうに考えています。
皆さんの証券口座には、どのような理由で買ったのか、いまでは説明できない商品がありますか。また、新しい商品が気になったとき、何を基準に追加するか、見送るかを決めていますか。よろしければコメント欄で教えてください。全部読ませていただいています。
数字を味方に。そして、誰の欲望でもない自分の人生を、自分の手で耕していきましょう。
ではまた、Q太郎でした。この動画を気に入っていただけましたら、高評価・チャンネル登録をよろしくお願いいたします。
