
こんなコメントをいただきました。
「取り崩し投資、参考にさせていただいています。ボラを減らすという考えは、私の投資スタイルにも合っています。投資で一気に増やそうとすると、高ボラ銘柄を買ったり、信用取引を利用したりで、逆に痛い目にあう人が多いように思えます。」
とのことです。ありがとうございます。
これ、本当にそのとおりで、一気に増やそうとすると、だいたいろくなことにならないですね。
Q太郎が投資を始めた頃というのは、年に5%増えただけで「すごい」と思っていたんですよね。銀行預金に比べれば、だいぶすごいわけです。
でも、しばらくして10%になると、5%では物足りなくなってくる。さらに景気のいい年に15%いくと、次の年に10%しか上がらなかったとき、なんか損したような気持ちになってくる。
これ、明らかにおかしいわけです。資産は増えているのに、なぜか満足できない。むしろ気分としては「下がった」に近い感覚がある。
この現象、長く投資をやっている多くのかたが、どこかで似たような経験をしているんじゃないかと思っています。今日はこの「なぜ増えているのに満足できないのか」という問いから出発して、お金と人生の両方に使える考えかたを探っていきたいと思います。
そんなわけで、ようこそ、Q太郎のお金の哲学へ。お金に悩まされないための生存戦略を日々発信しています。
今回は「期待しすぎない」という最強の投資戦略について深掘りしていきます。
・チャーリー・マンガーの言葉
ここで一人の投資家を紹介したいと思います。
チャーリー・マンガーという人物です。
知っている人は知っていると思いますが、ウォーレン・バフェットの長年のパートナーで、バークシャー・ハサウェイという会社を世界最大級の投資会社に育てたかたのひとりです。2023年に99歳で亡くなりましたが、亡くなる直前まで現役で会議に出席していたそうです。バフェット氏もそうですけど、投資家は長生きの人が多い印象がありますね。
マンガー氏は晩年にこんな言葉を残しています。
「幸せな人生を送る第一の法則は、期待しすぎないことだ」
これを聞いたとき、Q太郎はしばらく考え込んでしまいました。投資の達人が、人生の幸せについて語っている。でも考えてみると、投資と人生って同じ話なんですよね。どちらも「結果に期待して行動する」ものなのですね。
さらにマンガーはこう続けています。現実的でない期待を持ち続けると、生涯惨めな思いをし続けることになる。そこそこの期待を持ちながら、結果を冷静に受け止める姿勢こそが、長い時間軸で見たときの最強の戦略だと。
99年間生きて、世界屈指の投資会社を作ったかたが言う言葉ですから、重みが違うわけです。
いや、本当にそのとおりで、そこそこって大切だと思うんですよ。仏教的にも、ちょうどいい塩梅というのが重要で、「もっともっと」と欲望を膨らますと、だいたいろくなことにならないのですね。歴史上の頭のいい人たちは、だいたいこの結論にたどり着いている感じはあります。
・期待値のインフレのしくみ
ただ、「期待しすぎるな」と言われても、そうもいかないのが人間です。なぜかというと、人間にはやっかいなことに、「期待値のインフレ」という性質が組み込まれているからです。
どういうことかというと、人は成果が出るたびに、次への期待を自動的に引き上げてしまう。
年収が300万円のときは、500万円になればいいと思っていた。500万円になると、今度は800万円が目標になる。800万円になると、1000万円が欲しくなる。達成した瞬間に、ゴールポストがどんどん奥へと動いていくんですよね。キリが無いわけです。
投資でも同じです。年5%のリターンに満足していたのに、10%の年が続くと「これが普通」という感覚になってくる。そして7%になっただけで「下がった」と感じる。実際には7%は十分に良いリターンなのに、基準が変わってしまったから、物足りなく見える。それでレバレッジの高い投資をしてみたり、なんだかよくわからない金融商品に手を付けたりしてしまう。投資歴が長い人でも、こういうことをやりがちです。場合によっては、投資詐欺にだまされる。
これは、心理学では「快楽適応」と呼ばれている現象です。人は良い状態に慣れると、それが基準になる。新しいスマートフォンを買ったとき最初は嬉しいですが、一ヶ月後には当たり前の存在になっている。あれと同じことが、お金やリターンにも起きています。
厄介なのは、「期待値のインフレ」には終わりがないことです。どこまで行っても「もっと」と思い続けてしまう。これがマンガーの言う「幸福が持続しない最大の原因」です。
念願の資産5,000万円に達したら、次は1億円になってしまうわけですね。キリがないわけです。仏教では渇愛といいますが、歴史上の偉人はこれを理性の力で防いできたわけです。
・期待値のインフレが引き起こす投資の罠
そして、この「期待値のインフレ」は、投資においてかなり危険な罠を生み出します。この「もっともっと」の渇愛は、投資と本当に相性が悪い。
一つ目は、リスクの過剰摂取です。年10%のリターンに慣れた投資家が「もっと効率よく増やしたい」と思い始める。そこに「年利30%保証」のような話が出てくると、飛びついてしまう。冷静に見れば怪しい話なのに、インフレした期待値がフィルターを狂わせる。こういうときに詐欺被害や高リスク商品への乗り換えが起きやすい。
二つ目は、みんな大好き狼狽売りです。少し下がっただけで「想定外だ」と感じてしまう。本来は想定の範囲内の変動なのに、高くなりすぎた期待値がそれを許容できなくなる。結果として底値付近で売ってしまい、その後の回復を取り逃がす。これが長期投資の最大の失敗パターンです。
三つ目は、SNSの罠です。インターネットには「年利50%達成」「この銘柄で10倍になった」という話があふれています。見るたびに、自分の地味な積立結果が惨めに見えてくる。比較によって期待値がさらに引き上げられ、無謀なことをしてしまう。あれ、本当に害悪としか思えません。「100万円が4年で1億円になった」とかいう話とかですね。生存バイアス、バリバリです。そのうしろに、どれだけの死体の山があるかという話です。一部の生き残った人たちが、英雄談を語っているわけです。
そして、その人が本当に長期でそのリターンを維持できているのか、それとも運の良い短期間だけを切り取って見せているのか。多くの場合、後者とは思います。
・リスクと安全マージン
ここで、マンガーが大事にしていたもう一つの考えかたを紹介します。「安全マージン」という概念です。
マンガーはこう言っています。問題を起こすのは常に「想定外の出来事」だ、と。どれだけ計算し、どれだけ分析しても、想定外は必ず起きる。これは避けられない事実です。ブラックスワンの発生ですね。
ならどうするか。想定外が起きても大丈夫なように、あらかじめ余白を作っておく。これが安全マージンの考え方です。
投資で言えば、ようするにバケツ戦略ですね。短期バケツに、生活費の半年分から一年分は現金で持っておく。中期バケツに、直近で使うまとまったお金を保持しておく。さらに長期バケツの中でも、一つの資産に集中させない分散投資をする。最悪のシナリオが来てもまだ生き残れる比率でしか投資しない。これが安全マージンの実践です。バケツ戦略はまさにこの考えです。
一見すると、非効率に見えます。「現金は眠らせておくだけで損だ」「もっと効率よく運用できるのに」という感覚はよくわかる。Q太郎も以前はそう思っていました。でもマンガーもバフェットも、その「非効率に見える余白」を意図的に保ち続けた。半分ぐらい現金にすることもあります。いつ来るかわからない地獄のために。
2020年のコロナショックのとき、現金をほとんど持っていなかった投資家は狼狽売りを余儀なくされました。市場の底値で売ってしまったわけです。一方、安全マージンを持っていた投資家はむしろ底値で買い増しができた。どちらの投資成績が良かったかは、言うまでもないことです。
安全マージンは、「期待しすぎない」の具体的な実践形です。想定外を許容する余白を持つということは、自分の予測が完璧ではないことを認めることでもあります。
「愚者は利益を求め、賢者は危険を避ける」という言葉どおりなわけです。
・完璧を目指さず、続けられる設計にする
そして、マンガーが繰り返し語っていたのが「完璧主義を捨てる」という発想です。
投資でよくあるのが、「最適なタイミングで買いたい」「最高の銘柄だけを選びたい」という完璧主義です。でも完璧なタイミングは永遠に来ないし、事前に最高の銘柄を選ぶことはほぼ不可能です。完璧を求めるあまり、何年も行動できなかったというかたは少なくないはずです。
あるいは、始めてみたもののちょっとした失敗で「計画が崩れた」と感じ、全部やめてしまう。これも完璧主義が生む悲劇です。
完璧主義は脆いんです。余白がないから、少しの狂いにも耐えられない。
マンガーが好んで言っていたのは「悪くない選択を続けることが最終的に一番強い」ということです。完璧な選択を目指すのではなく、「まあまあ正しい選択」を淡々と続ける。不確実な世界では、これが最も合理的な戦略だということです。
毎月コツコツと積立投資を続けたかたが、タイミングを計り続けて結局何もできなかったかたより、長期では圧倒的に良い結果を出していることが多い。これは複利の話でもありますが、同時に「続けられる設計にする」という話でもあります。
・塵も積もれば山となる
そして最終的にすべてに勝る力は「継続」だとマンガーは言います。
複利というのは、小さなリターンが積み重なって時間とともに加速していく仕組みです。最初の数年は地味すぎて効果を実感できない。10年目くらいから「あれ、増えてきたな」となって、20年目に「これはすごい」となる。時間がとにかく必要なのです。
バフェットの資産の99%は、50歳以降に作られたと言われています。複利が本当に効いてくるのはそれだけ時間がかかる。若い頃の地味な積み重ねがなければ、後半の爆発的な成長はない。とにかく地道に待つしかない。
マンガーがバークシャーを育てたのも50年以上かけてのことです。「塵も積もれば山となる」は、単なることわざではなく、マンガー自身の生き方そのものです。
Q太郎が思うのは、この継続こそが一番難しいということです。途中で飽きる、怖くなって逃げる、「もっといい方法があるんじゃないか」と乗り換える——こういうことが複利を壊す。
「期待しすぎない」ということは、裏を返せば「小さなリターンでも受け入れ続けられる」ということです。地味な継続に価値を見出せるかたが、最終的に複利の恩恵を最大限に受け取れる。投資は、まさに忍耐力なわけです。
・まとめ
そんなわけでまとめると、「期待しすぎない」というのは諦めや消極性ではなく、長期で勝ち続けるための戦略です。忍耐力を長く維持するための戦略ですね。
期待値のインフレは自動的に起きる。放っておくと、いくら増えても足りなくなる。意識的に「そこそこでいい」という基準を保ち続けることが、冷静な判断と幸福の持続につながります。
安全マージンを確保する。完璧を目指さず、続けられる設計にする。そして小さな正解を積み重ね続ける。マンガーが99年間かけて見つけたのは、派手な一発より地味な継続が最終的にすべてに勝る、ということだったんだと思います。
以前の動画で「老後の期待値を下げる練習」という話をしました。あれは老後の話でしたが、今回の投資の話とまったく同じ構造をしています。どちらも「そこそこ」を受け入れる姿勢が、長期では最強になる。お金の話も、人生の話も、根っこは一緒だということです。
仏教でいうところの、「弦は張りすぎると切れ、緩すぎると音が鳴らない」というやつですね。ちょうどいいところで良い音が鳴るわけです。
よかったら「あなたが投資や人生で期待しすぎてしまったな、と感じた経験はありますか?」をコメントで教えてください。全部読ませていただいています。
数字を味方に。そして、誰の欲望でもない自分の人生を、自分の手で耕していきましょう。
