
こんなご質問をいただきました。
「橘玲の『プア・ジャパン』を読みましたか?日本では年間所得が50万円未満の世帯が三割を占めているとのことで、かなりヤバい状況です。読んでいたら感想をお聞かせください」
とのことです。ありがとうございます。
Q太郎は結構最近読みましたね。タイトルから内容が予測できるので読む必要があるのか迷いましたが、最初にある未来の日本をテーマにした小説とかは皮肉がきいていて面白かったです。
それで日本では、年間所得が50万円未満の世帯が、全体の30%を超えているということも書かれていましたね。ただちょっと注意が必要なのは、この本の内容は、2023年の厚生労働省の調査がもとになっているので、今年のことではありません。
ただそれでも、およそ三世帯に一世帯が50万円未満です。
しかも一世帯あたりの平均所得は、2021年の約423万円から、2023年には約385万円へ下がっています。
2年間で約39万円、率にすると9.1%の減少です。結構でかい。
この間、物価は上がっています。インフレしているのに、平均所得が下がっているわけです。
同じ金額で買える物が減っているのに、所得の金額そのものまで下がっている。
これだけ聞くと、日本人の3割が年収50万円未満で暮らし、平均的な家庭の所得も385万円まで落ちたように見えます。
日本は、そこまで貧しくなったのでしょうか。
そんなわけで、ようこそ、Q太郎のお金の哲学へ。お金に飲み込まれないための生存戦略を独自の視点で解説します。
今回は橘玲さんの著書『プア・ジャパン』をもとに、「日本人の3割が年収50万円未満という数字の正体」を深掘りしていきます。
・三つの話
今日は大きく三つ話します。
一つ目、3割が50万円未満という数字は、何を数えているのか。
二つ目、企業が賃上げしても、なぜ平均世帯所得が下がるのか。
三つ目、社会保障で所得を戻す国を、誰が支えるのかです。
最後に、『プア・ジャパン』が描く未来について、Q太郎なりの見立てを置いて終わります。
・一つ目・年金を入れる前の所得
それでは一つ目、3割が50万円未満という数字は、何を数えているのかです。
厚生労働省の所得再分配調査には、「当初所得」という言葉が出てきます。
当初所得には、会社から受け取る給与、事業所得、家賃や配当などの財産所得、私的な仕送りなどが含まれます。
一方、公的年金などの社会保障給付は、まだ加えられていません。ここは注意が必要です。
それで2023年調査では、この当初所得が年間50万円未満の世帯が30.4%ありました。
ここで大きいのが、高齢者世帯です。
会社を退職し、公的年金を中心に暮らしている世帯は、実際には年金収入があります。しかし当初所得の段階では、その公的年金が計算にはいりません。ここが注意ポイントです。
そのため、年金で生活している人も、当初所得だけを見れば、所得がほぼゼロの世帯になることがあります。
ですから、「日本人の3割が、年間50万円だけで生活している」という意味ではありません。
しかもこれは、日本人一人ひとりの割合ではなく、世帯の割合です。
それで、再分配後の数字を見ると、印象は大きく変わります。
当初所得50万円未満の世帯は30.4%ですが、年金や医療、介護などを反映した再分配所得では、50万円未満の世帯は1.2%です。一気に減るわけです。
社会保障によって、多くの世帯の所得が持ち上げられているのですね。
資産についても、この統計だけでは分かりません。
当初所得が低くても、自宅や預貯金、株式などを持っている世帯はあります。反対に、高い所得があっても、大きな住宅ローンを抱えている世帯もあります。
50万円未満という数字だけで、生活の豊かさや貧しさを全部判断することはできません。だから「日本人は所得50万円未満が3割で貧しい」と単純にとらえることはできないわけです。
ただ、「年金を除いた数字だから関係ない」で終わるのも違うと思います。
なぜなら、年金を加えなければ所得がほぼない世帯が、全体のかなり大きな割合になっていること自体が、日本の現在地だからです。後述しますが、この社会構造が一番の問題です。
・二つ目・賃上げされる人が減っていく
二つ目、企業が賃上げしても、なぜ平均世帯所得が下がるのかです。
2021年の平均当初所得は423万4,000円でした。
2023年には384万8,000円です。
2年間で38万6,000円、9.1%下がりました。
物価が上がっているインフレの時期に、実質ではなく名目の当初所得まで下がっています。
これを見ると、企業が給料を下げたように思えます。
しかし実際のところ、大きな理由は「高齢化」です。
働いている会社員の給料が上がっても、退職して給与を受け取らなくなる世帯が増えれば増える程、全世帯の平均当初所得は下がります。
現役世帯の給料は増えている。
しかし、賃上げを受け取る現役世帯そのものが減っている。
その一方で、公的年金を主な収入とする世帯が増えていく。先ほども説明したように、年金は当初所得には入りませんので、統計的には全体の平均を押し下げます。
統計の中では、現役世帯一つの賃上げと、別の世帯が退職して給与所得を失うことが、同時に起きているのですね。
そのため、「平均所得が下がったから、働く人全員の給料が下がった」とは言えません。ここは注意が必要です。
反対に、「会社員の給料が上がったから、日本全体が豊かになった」とも言えません。
企業が賃上げをしても、それを受け取る現役世帯が減る速度のほうが速ければ、日本全体の平均当初所得には下押し圧力がかかります。
高齢化率は、今後も長く上昇すると予測されています。
2040年に向けては、高齢者が急に増えるという段階から、現役世代が急速に減る段階へ移ります。
さらに2040年に、高齢者一人を、現役世代1.3人で支えるという予測もあります。
支える側の人口が減り、受け取る側の割合が増えていく方向なっているのですね。
賃上げだけでは解決できない人口構造へ、日本は入っているわけです。
・三つ目・再分配で豊かに見える国
三つ目、社会保障で所得を戻す国を、誰が支えるのかです。
平均当初所得384万8000円から、税金48万2000円と、社会保険料52万9000円を引くと、283万7000円が残ります。
ただし、これはまだ、年金などの現金給付を加える前です。
年金や児童手当などの現金給付を加えると、使える金額は約399万9000円になります。
さらに医療や介護、保育などの現物給付を金額へ換算して加えた平均再分配所得は、467万7000円です。
平均で見ると、再分配後の所得は、最初の当初所得より82万9000円増えています。
税金と社会保険料を取られているのに、社会保障を加えると、なぜか全体としては最初より増えている。
低所得の世帯や高齢者世帯へ、再分配が大きく働いているからです。
この制度があるから、当初所得50万円未満の世帯が30%いても、50万円未満の生活のままにはならないわけです。
社会保障が、日本の生活を支えています。
しかし、ここで疑問が残ります。
82万9000円は、空から降ってきたお金ではありません。
現役世代や企業が負担する税金と社会保険料、消費税、積立金、そして国債などから出ています。
所得を自力で得る世帯が減り、再分配で生活する世帯が増える。その再分配を支える人口も減る。
しかもインフレが進めば、同じ年金額で買える物は減ります。
給付額を増やせば、支える側の負担が重くなる。負担を増やさなければ、受け取る側の実質的な生活水準が下がる。
どちらを選んでも、誰かの痛みになります。
『プア・ジャパン』は、この先に起こり得る制度の矛盾を、小説形式の未来予測として描いています。
その未来では、生活保護受給者が増え、財政負担が重くなります。そして政府が、年金受給者は生活保護を受けられないという法律を作ります。
その結果、現役時代に苦労して保険料を払ってきた年金受給者より、生活保護を受ける人のほうが豊かな生活を送れるという逆転が起きます。
「それなら、保険料を払ってきた意味は何だったのか」
そんな不満が出るのは当然でしょう。
問題は、生活保護の生活が豊かすぎることではありません。
長年保険料を払った人の生活が、最低限度の生活より下へ落ちることです。
・まとめ・制度は納得でも支えられている
最後に、『プア・ジャパン』が描く未来について、Q太郎なりの見立てを置きます。
社会保障が壊れるのは、お金が完全になくなったときだけではありません。
保険料を払ってきた人が、「払わないほうが得だった」と思ったときにも、制度は壊れ始めます。
社会保障は、数字だけで動いているわけではありません。
今は自分が支える。いずれ自分も支えられる。
負担した人が、制度へ参加してよかったと思える。その納得によっても支えられています。
ところが支える人が減り、受け取る人が増えれば、負担を増やすか、給付を削るか、受け取れる人を絞るかという話になります。
そこで、きちんと払ってきた人ほど苦しくなる制度を作れば、納得のほうが先に壊れます。
日本人の3割が年収50万円未満というのは、そのままでは正確ではありません。公的年金を加える前の当初所得の話です。年金が計算に入っていないわけです。
しかし、この数字は誤解だから安心してよい、という話でもありません。
日本の三割が極貧なのではない。
自分で所得を得る世帯が減り、再分配がなければ生活の成り立たない世帯が増えている。そして、その再分配を支える側も減っている。構造的に先細っていく感じになっているのですね。
Q太郎は、こちらのほうが、単純な貧困の数字より重い問題だと思います。
プア・ジャパンの問題は、一人ひとりの給料が安いことだけではありません。
賃上げされる人そのものが減っていくことです。
企業が努力して現役世代の給料を上げても、退職世帯が増える速度のほうが速ければ、国全体の平均当初所得には下押し圧力がかかります。
そこを年金や医療で支えれば、今度は減っていく現役世代へ負担が集まります。
「みんなが平等に貧しくなれば、格差は小さく見える」
これは統計上、あり得る話です。実際日本は、再分配後の格差は大きくありません。何十年も前とほぼ変わりません。
しかし、格差が小さいことと、国が豊かなことは同じではありません。
誰かだけが沈んでいるのではなく、船全体がゆっくり沈んでいるなら、平等であることは救いにならないのですね。
『プア・ジャパン』は、この「みんなで貧しくなる」という状況を明らかにし、一石を投じる著書になっています。
皆さんは、日本人の3割が所得50万円未満という数字を、最初に聞いたとき、どのように受け取りましたか。また、賃上げだけでは解決できない高齢化と再分配の問題について、どう考えるでしょうか。よろしければコメント欄で教えてください。全部読ませていただいています。
数字を味方に。そして、誰の欲望でもない自分の人生を、自分の手で耕していきましょう。
ではまた、Q太郎でした。この動画を気に入っていただけましたら、高評価・チャンネル登録をよろしくお願いいたします。
