
こんなコメントをいただきました。
「60代あたりが投資詐欺にあいやすいのは、退職金が一気に振り込まれることで、気が大きくなってしまうというのもありますね。それで人生の逆転を狙おうとしたりします」
とのことです。ありがとうございます。
長い会社員生活が終わり、退職金が口座へ振り込まれる。
残高を見ると、そこには、それまで見たことのない金額が並んでいます。
1000万円、2000万円、人によってはそれ以上です。
昨日までと生活は何も変わっていないのに、急に自分がお金持ちになったような気がします。
すると、それまでなら検討もしなかった話が、現実的な選択肢に見えてきます。
投資用マンションを買えば、家賃収入が入る。
知り合いから紹介された事業へ出資すれば、大きく増えるかもしれない。
昔からやりたかった店を開くこともできる。
家を大規模に改修したり、退職記念に高級車を買ったりもできます。
ずっと我慢して働いてきたのだから、最後くらい、自分のやりたいことをやってもよい。
このお金を使って、これまでできなかった人生を取り戻したい。
気持ちはよく分かります。
ただ、Q太郎は、退職金で人生を取り戻そうとしてはいけないと思っています。
過去の人生は、もう売っていないからです。
退職金で買えるのは、不動産や金融商品や車です。
働きづめだった30年間や、若いころに諦めた夢そのものを、あとから買い戻すことはできません。
それでも退職金を「最後の軍資金」に見立てると、人は退職後に大きな勝負へ出てしまいます。
そんなわけで、ようこそ、Q太郎のお金の哲学へ。お金に飲み込まれないための生存戦略を独自の視点で解説します。
今回は「退職金で人生を取り戻そうとしてはいけない」を深掘りしていきます。
・三つの話
今日は大きく三つ話します。
一つ目、退職金が自分をお金持ちにしたように見えること。
二つ目、まとまったお金が過去の未練を呼び起こすこと。
三つ目、不動産投資が一つの大きな籠になることです。
最後に、退職金をどのようなお金として見ればよいのか、Q太郎なりの見立てを置いて終わります。
・一つ目・お金持ちになった錯覚
それでは一つ目、退職金が自分をお金持ちにしたように見えることです。
会社員の給料は、毎月少しずつ入ってきます。
今月30万円入っても、そのお金で数千万円の不動産を買おうとは、なかなか考えません。
しかし、退職金は違います。
長年の労働に対するお金が、まとめて入ってきます。
口座に2000万円あれば、2000万円のものへ手が届くように見えます。
ここで錯覚が起こります。
2000万円を持ったから、2000万円を自由に使えると思ってしまうのですね。
しかし退職金は、宝くじの賞金ではありません。
昨日までなかった余分なお金が、突然生まれたわけでもありません。
これから会社の給料が入らなくなる人生を支えるためのお金です。ここが重要で、給料が入ってくる状態で、大金が入ってきているわけではないのですね。今後のぶんを前払いしているだけです。
口座残高が人生で最大になったとき、これからお金を稼ぐ力は小さくなっています。
資産の残高と、人的資本が逆方向へ動くのですね。
現役時代に500万円を失っても、給料を受け取りながら何年かかけて貯め直せる可能性があります。
しかし、退職後に500万円を失った場合、その穴を埋める毎月の給料はありません。現役時代とは、ダメージの質が違います。
残高が大きいから、大きな損失に耐えられるわけではないのです。
むしろ、取り戻す手段が少ないため、大きなお金ほど慎重に扱う必要があります。
ところが人は、損失を取り戻せるかどうかではなく、いま払えるかどうかを見ます。
口座にお金がある。
だから買える。
買えるのだから、自分にふさわしい。
こうして、それまで自分の生活圏になかった高額な商品や投資が、急に目の前へ入ってきます。
退職金を受け取った瞬間は、お金持ちになった瞬間ではありません。
給料のない人生で使うお金を、まとめて前払いで受け取った瞬間なのですね。一気に使っていい種類のお金ではないわけです。
・二つ目・過去の未練が動き出す
二つ目、まとまったお金が、過去の未練を呼び起こすことです。
退職金が危ないのは、単に金額が大きいからではありません。
そのお金に、長い会社員人生の感情がくっついているからです。
本当は、自分で商売をしてみたかった。
投資で成功して、会社の給料以外からお金を得てみたかった。
もっとよい家に住みたかった。好きな車に乗りたかった。好きな場所へ移住したかった。
仕事や家族の事情で先送りしてきたものが、退職金の残高を見た瞬間に動き出します。
これだけあれば、いまからでもできる。
まだ人生を変えられる。
会社員時代に我慢した分を、ここで取り戻せる。
そう考えると、退職金が老後の生活資金ではなく、過去の自分へ支払う慰謝料のように見えてきます。
その思い自体はべつにいいのですが、そこへ、うまい話が入ってくる場合があるのですね。
知らない営業マンの話なら警戒できるかもしれません。
しかし、元同僚や学生時代の友人、親族など、人づてに勧められた投資は断りにくいものです。
商品を信用したのではなく、紹介してきた人を信用します。
長年の知り合いなのだから、自分をだますはずはない。
あの人も投資しているのだから、大丈夫だろう。
ただ、紹介した人自身も、仕組みを理解しているとは限りません。
その人も、別の誰かを信用しているだけかもしれないのですね。
長く会社で働いてきた人には、もう一つ落とし穴があります。
会社では部長だった。何十人もの部下を動かした。大きな予算を扱った。取引先と難しい交渉もしてきた。
その経験があるため、自分は大きなお金の判断にも慣れていると思ってしまいます。
しかし、会社の看板や専門部署、社内の確認手続きに守られて行う判断と、個人として自分の退職金を差し出す判断は別物です。
会社で仕事ができたことは、不動産、未公開株、海外投資、フランチャイズ経営に詳しいことを意味しません。
それでも、いい年をした自分が「よく分かりません」と言うのは、案外難しい。
説明を受けて分かったような気になり、人生最後の大きな判断をしてしまいます。
退職金で大勝負に出る人は、お金を増やしたいだけではない場合もあります。
会社員のまま終わった自分ではなく、最後に何かを成し遂げた自分になりたい。
その気持ちがあるため、利回りや損失だけでは止まれないのだと思います。
・三つ目・不動産という大きな一つの籠
三つ目、不動産投資が一つの大きな籠になることです。
退職金の使い道として、不動産投資を勧められることがあります。みんな大好き、「老後のお小遣い」という言葉ですね。これについてはまた今後深掘りしていきたいです。
そんな感じで、現金を持っているだけでは増えない。マンションを買えば、毎月家賃が入る。建物という現物も残る。
株式のように価格が毎日画面へ表示されないため、安定しているようにも見えます。
しかし、アセットアロケーション、つまり資産配分の面から見ると、普通の個人が行う不動産投資は、かなり偏りやすいものです。
たとえば退職金を含めた資産が5000万円の人が、3000万円の投資用不動産を買ったとします。
それだけで、資産の60%が、一つの不動産へ集中します。
一つの地域、一つの建物、一つの管理会社、そして一つの入居需要です。
投資の世界には、「一つの籠にすべての卵を盛るな」という言葉があります。
ところが、数千万円のマンションを一室買えば、老後資金という卵の大部分を、一つの建物という籠へ盛ることになります。
株を一社だけ3000万円ぶん買うと言われたら、多くの人は危ないと思うでしょう。普通は何社かに分散して買うとか、オルカンを買うとかしますね。
しかし、3000万円のマンションを一室買うと、なぜか「現物資産を持った」「これで安定した」「老後のお小遣いを確保した」と感じます。
大きくて頑丈そうな籠なので、籠が一つしかないことを忘れてしまうのですね。
不動産が大きいから、分散されているわけではありません。
大きな一つの物を買っただけです。
Q太郎は以前、資産が1億円以下の段階で行う数千万円の不動産投資は、資産配分の面でかなり厳しいという話をしました。
物件価格が本人の総資産に対して、占める割合が大きすぎる場合があるのですね。
十分な資産があり、その一部として不動産を持つなら、資産配分として考えられます。
しかし、退職金の大部分を使って一室や一棟を買うなら、「不動産も含めて分散した」のではありません。
不動産へ、エグいレベルでの集中投資したのです。さっき言ったように、一社の株だけを数千万円で買うようなものですね。
安い物件とか、自分が住みたい物件ならべつにいいんですけど、老後のお小遣いとかの投資の話になると、話はべつです。そこはちゃんと投資として考える必要があります。
借金を使えば、さらに話は大きくなります。
少ない自己資金で大きな物件を持てることは、分散ではありません。
一つの籠に、自分が持っている以上の卵を借りて盛っている状態です。
空室になっても、修繕が必要になっても、返済は続きます。
退職して会社員を終えたはずなのに、今度は大きな借金と一つの物件を抱えた、小さな不動産事業者になります。
それを本当に望んでいるなら、現役時代から勉強し、小さく試す時間もあったはずです。
退職金が入ってから初めて思いついた不動産投資や事業なら、それは長年の夢というより、大金を見たことで突然生まれた使い道かもしれません。
そしてそういう場合、だいたいの人はちゃんと不動産の勉強をしていないので、業者の言うがままに、適当なワンルームマンションとかを買わされたりします。もう60歳も過ぎて残り寿命も短いのに、なんか長期的に儲かるみたいな話をされたりするのですね。そして本人は不動産の勉強をろくにしていないので、あとあと面倒なことになったりするわけです。
・まとめ・退職金は賞金ではない
最後に、退職金をどのようなお金として見ればよいのか、Q太郎なりの見立てを置きます。
退職金は、会社員人生の賞金ではありません。
これから給料がなくなる人生への補給物資です。
長年働いてきたのだから、好きなことへ使ってはいけないという話ではありません。
旅行へ行ってもよいですし、欲しかった物を買ってもよいでしょう。
ただ、そのお金で一発逆転を狙ったり、過去の人生まで取り戻そうとすると、使う金額が大きくなります。
昔できなかった商売をする。投資家として成功する。よい家を手に入れる。退職後にもう一度、何者かになる。
一つの商品を買うだけなのに、そこへ人生の意味まで乗せてしまうのですね。
意味が大きくなれば、金額も大きくなります。
ありがちなのは喫茶店経営とかですね。やるんだったら自宅を改造して家賃がかからないようにするとか、他人の店を週に何回かレンタルしてやってみるなど、ランニングコストをとにかく落として小さく始めたほうがいいとは思います。最初から大きくやらない。そもそも自分に合っていない可能性もある。そもそも知識と経験が足りてないので、他人のお店でバイトしてみてもいいでしょう。
そんな感じで、人は「これが最後の機会だ」と思えば、なんかあまり細かいことを考えなくなりますし、お金をパッと出せてしまいます。業者側からすれば、いいカモなわけです。
しかし、不動産を買っても、働きづめだった時間は戻りません。
謎の投資へお金を入れても、若いころに諦めた夢が実現するわけではありません。
だから退職金が入ったときに考えたいのは、「このお金で何を成し遂げるか」という一発逆転の発想ではなく、これからどう生きていきたいかです。
現役時代から続けていなかったこと、やったこともないことへ、退職金を使って突然大きく参入しない。やるならまず小さくやる。そもそも自分に合わない可能性もある。
人生を変える決済は、急いで行わなくてもよいのですね。
なお、「大もうけはいらない。老後のお小遣いが少し入ればよい」という理由で、大きな元本を投資する問題もあります。
これは、少額の収入が大きな投資を正当化する別の話になりますので、次回に深掘りしたいと思います。
退職金は、過去の自分へ支払う慰謝料ではありません。
未来の自分が、静かに暮らすための補給物資です。
最後の大勝負へ使うより、最後まで大勝負をしなくてよい状態を作るために使ったほうがよい。やるのであれば、小さく始めたほうがいい。知識不足・経験不足は自覚しておいたほうがいい。じゃないと、簡単にカモられます。
皆さんの周りには、退職金をきっかけに、大きな買い物や投資をした人がいるでしょうか。また、自分なら退職金を受け取ったあと、どのくらい時間を置いてから使い道を決めますか。よろしければコメント欄で教えてください。全部読ませていただいています。
数字を味方に。そして、誰の欲望でもない自分の人生を、自分の手で耕していきましょう。
ではまた、Q太郎でした。この動画を気に入っていただけましたら、高評価・チャンネル登録をよろしくお願いいたします。
